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いよいよ三省堂「今年の新語2016」トップテンを華麗に予想していきます。

昨日の繰り返しになりますが、「今年の新語2016」全体では応募フォームとツイッターを合わせて、のべ2834語の投稿があったそうです。このうちツイッターでは1200語程度が応募されています。重複を整理すると実質的には700語強です。
残念ながら、応募フォームでどういったことばが投稿されたか、知る由はありません。アクセス可能なツイッター上の投稿から、「今年の新語」に入選することばをうらなってみたいと思います。

全体の傾向とか面倒な話はすっ飛ばして早速10位から行ってしまいましょう。


10位 砲

いきなり手前味噌からスタートです。
上のツイートで概ね意を尽くしている感がありますが、言うまでもなく年初から世間を賑わせた「文春砲」の「砲」です。「文春砲」は「新語・流行語大賞」にもノミネートされていたものの、話題性の点では申し分ない一方、応用という点で難があると言わざるを得ません。
しかし、「砲」だけなら、他のことばの後ろに付ける例は以前からあります。したがって「砲」単体での入選は可能性を残すと思います。

KYは使われ始めて10年目?〜三省堂「今年の新語2016」とは? - デイリーポータルZ
「その年を代表する言葉で、今後の辞書に掲載されてもおかしくないもの」を募集する「今年の新語」がおもしろい。 (西村まさゆき)

デイリーポータルZの「今年の新語」企画紹介記事でも、西村まさゆき氏が「接尾語として使う例がけっこうありますよね」というコメントを下しています。
「砲」自体は息の長いことばであり、それが今年広まって応用の幅もできた、と考えると、意外といけるんじゃないでしょうか。

  • 採録している辞書:応募の意味ではなし

9位 スカンツ

2015年の「今年の新語」6位に「着圧」がありました。意味は「女性用のストッキング・肌着などで、着用した部分の皮膚にかかる適度の圧力」だったのですが、別に2015年に生まれたことばではないようですし、選評でも「今後編集される国語辞典には「着圧」を載せてもいいだろうと判断した、それが今年であった、というふうにご理解ください」と述べられています。
どうもこれは「ファッション語枠」だったのではないか、と私はみています。

スカート+パンツの「スカンツ」のほかに、スカート+ガウチョパンツの「スカーチョ」もノミネートがありました。合わせてGoogleトレンドの推移を見てみましょう。青が「スカンツ」、赤が「スカーチョ」です。

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既に下り坂なのがやや気になりますが、正真正銘、2016年のことばです。ファッション語枠として入れるにはふさわしいでしょう。

  • 採録している辞書:なさそう

余談ながら、2015年の「着圧」は私の把握している限り、ツイッターでは投稿されていませんでした。ウェブのフォームだけから応募されたことばも、当然、入選する機会があるということですね。我々は手持ちの材料でやっていくより他ありません。


8位 民泊

またも手前味噌です。

【速報】民泊申請が東京都大田区で29日から受付開始!
東京都大田区で、日本初となる民泊申請の受付を1月29日に開始することを発表しました!民泊条例の可決を全国初で決…

昨年10月に大阪が民泊条例を全国で初めて可決して以来、民泊を普及する動きが広がり、Googleトレンドの推移からも関心の高まりは明らかです。

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民泊が新たな宿泊施設の形態として定着する可能性は高いでしょう。当然、「民泊」ということばも末永く使われることになります。制度化されたことばには強度があります。
昨年は「マイナンバー」が2位に入っており、今年の「社会制度語枠」は「民泊」が来ると予想します。

  • 採録している辞書:応募の意味では〈大辞泉〉

7位 卑怯

またお前のかと怒られそうです。ただ、知らない人のツイートは相手に迷惑じゃないかとか、自分のツイートなら消える心配がないとかでゴニョゴニョ……どうかご勘弁ください。自分の投稿はどうしてもよく見えてしまう、という要素も正直あります。

さて、「こんなやり方で相手を笑わせるなんて」という意図で用いられる「卑怯」は、「笑ったら負け」の文化の存在を思い出させます。
タレントの前でお笑いをやらせて、タレントが笑わずに耐えたら勝ち、吹き出してしまったら負け、という番組は以前からありますよね(残念ながら全く詳しくないのですが)。
もっと言えば、古来からある「にらめっこ」の遊びは、いかに「卑怯」になるかが勝負です。

これまでも、相手の予想を裏切る「不意打ち」的展開に対して言うことばには、「その発想はなかった」「斜め上」(「今年の新語2015」10位)などがありました。その仲間としての「卑怯」は遥か昔に定着しきった短い漢語です。と同時に、言うまでもなく、元来「卑怯」は相手をけなすためのネガティブなことばであり、更に「強い」印象を与えます。
「斜め上」も元は嘲笑の意味合いがあった、つまりネガティブなことばだったのが、ポジティブに転化したように思います。しかし「斜め上」と「卑怯」とを比べた場合、後者はもっと広く使えるように思います。ツイートで書いたように「このかわいさは卑怯」などと言える。予想外の展開で沸き起こる感情であれば、「笑い」でも「切なさ」でも、何でもよいのです。
応用範囲が広く、かつインパクトのある「卑怯」の新しい意味は、「斜め上」などを上書きしていくようにしてさらなる普及を見るでしょう。入選を期待します。

  • 採録している辞書:応募の意味ではなし

6位 AI

ツイッター上では3件の投稿がありました。「シンギュラリティー」「ディープラーニング」「アルファ碁」といったAI関連のことばは複数ノミネートされています。
「AI」ということば自体は当然古くから存在しています。シンギュラリティが到来し、AIが社会の至るところで活躍する2045年の情勢を描いたNHKスペシャル『NEXT WORLD』(これはあまり評判がよくありませんでしたが)の放送は、今年ではなく去年の正月のことでした。とは言え、AIを使って云々と猫も杓子もアピールし始めたのは、やはり今年ではないでしょうか。
ただ、「今年の新語」としては鉄板すぎて、面白みに欠けると言えば欠ける。順位はやや低めになるかもしれません。

採録している辞書:多数


5位 パワーワード

簡便のため再び自分のツイートを引きましたが、「パワーワード」は私を入れて10人が投稿しており、注目度が高いと言えます。例えばこちらの方。

ちなみに「今年の新語2015」でもノミネートがありました
今のところ、現実世界で口にしている人こそ目につかないものの、Googleトレンドのグラフはここ最近右肩上がりです。

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意味としては、極端な話「何かウケる」くらいのものであり、それほど目新しい概念を提示しているとは思えません。世が世なら「いとをかし」とでも言っていたのではないでしょうか。「パワーワード」自体がパワーワード、という節もないではない。
逆に言えば、これからごく自然に「ウケる」の代わりに使っていけることばであり、応用範囲の面では問題ないでしょう。投稿者が多いという点に鑑みても、入選しておかしいところは何らありません。

  • 採録している辞書:なし

4位 VR

「AI」と並び技術系のことばです。「バーチャルリアリティ」は本来、コンピュータ技術によって提供される疑似体験のことを指すのではないかと思いますが、最近はもっぱらゴーグルをかぶるタイプを指しているようです。首を回すと連動して、つまり実際にその世界の風景を見ているように周囲の映像が映し出され、歩き回ればやはり連動してその世界を移動する、といったものです。

イベントスペースなどではVR体験会があちこちで開催され、10月13日にはソニーが「PSVR」を発売するなど、普及が広がっています。

新たな名称が生まれない限り、この技術は当分「VR」と呼ばれるはずです。様々な形で体験する機会も増加の一途をたどるでしょう。定着の見込みは高いと考えます。

  • 採録している辞書:多数

3位 エモい

https://twitter.com/the_yuchan/status/771299528691453952

「エモい」は7件の投稿がありました。
上の方も「音楽に関して言うことが多い」と記述する通り、出自は音楽業界のようです。もし入選した場合、その方面からいっせいに「今更!?」と声が上がることは避けられません。

何しろ、〈大辞林〉はこのことばを2005年に採録しています。

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上記は〈デュアル大辞林〉の語釈です。
しかし「今年の新語」は、「今年特に広まったと感じられることば」に対して広く門戸を開いていますから、いつ生まれたことばであっても入選のチャンスはあります。現に「着圧」の例があるわけです

先ほどもリンクしたデイリーポータルZの記事では、飯間先生その人が「えもい」「さぼる」(「サボタージュ」から)や「いくら」(魚卵。元はロシア語)と同様に和語化していく可能性を示唆しています。定着の見込みがあるということです。

採録している辞書:〈大辞林〉


2位 まって

普通のことばじゃねえか、という声が聞こえそうです。
あまりにも普通すぎるためか「まって」を立項する辞書はなく、〈Wikipedia〉、〈ニコニコ大百科〉、〈pixiv百科事典〉のどこにも項目はありません。
Googleトレンドのグラフも芳しい結果を返してはくれません。もっとも、誰も「まって」を検索しようとは思わないでしょう。

しかしながら感覚として、「ねえまって」あるいは「まってまってまって」のような形での使用が最近急速に伸びていると、私も確かに思います。
いつの頃から増えてきたのか客観的な推移を遡って調べることは困難を極めますが、私が「よく聞くな」と感じたのは2015年に入ってからでした。

過去を振り返れば、2015年の7位に「言うて」。また、企画の前身となった「今年からの新語2014」3位に「あーね」、2位には「それな」が選ばれていたことを思い出しましょう。
「当たり前すぎて見逃されながら、たしかに浸透していることば」があっさりと上位に入賞することは、十分にあり得ます。

採録している辞書:なし


1位 ほぼほぼ

ツイッターで「ほぼほぼ」を推すのは事実上この2件のみ。
しかし、2016年は「ほぼほぼ」が大いに話題になった年でした。

2月に、最近の気になることばとして「ほぼほぼ」を取り上げた記事がネットに登場しました。

これが発端だったのかもしれません。
全国的に「ほぼほぼが気になる」という意識を広めたのが、6月30日付の朝日新聞の記事です。

この翌日、「ほぼほぼ」をまとめたブログ記事が投稿されます。

日本一「ほぼほぼ」に詳しくなれる研究ノート【リンク集】
こんにちは。デザイン芸人「デザインや」です。 「ほぼほぼ」業界の健全な発展を願って、自称・日本一ほぼほぼに詳し…

さらに7月13日、朝日新聞の後追いで、フジテレビ『めざましテレビ』のコーナーで「ほぼほぼ」が取り上げられました。

番組では、若い人の間ではよく通用しているが年齢層が高いとそうでもないこと、反発される場合もあることなどが報じられています。

しかし、反感をよそに4月からはその名も「ほぼほぼ ~真夜中のツギクルモノ探し~」(テレビ東京)なる番組が開始しています。
8月には「ほぼほぼ」を書名に入れた、ことばを扱う新書まで出てしまいました。

読んでいないので内容はわかりません。
しかし、今年「ほぼほぼ」が熱い注目を集めているのはこの上なく確実です。
2016年を「ほぼほぼイヤー」「ほぼほぼ元年」と名付けてもよいくらいです。

「ほぼほぼ」の言い回しそれ自体は新しい一方で、その造語の方法は伝統から外れておらず、いわば素直な日本語である点については既に指摘されています。

「またまた」、「知らず知らず」、「ところどころ」など畳語法で作られたことばは数知れず。「ほぼほぼ」だけが嫌われる合理的な説明は付かないでしょう。
むろん「慣れてないから厭」というのはそれで十分理由足りえますが、慣れてしまえばおしまい、ということでもあります。今後ごく自然に既存の語彙の仲間入りを果たしていくと考えられます。

昨日、既成語の延長線上にあることばは入選の見込みが低くなるのではないか、と書いたばかりですが、早くも撤回するのが妥当に思われてきています。全然華麗じゃねえな。いえ、あるいは撤回せずとも、そうしたディスアドバンテージを押し切ってトップに至るだけの勢いが「ほぼほぼ」にはある、と言ってしまってもよいのかもしれません。
現在の定着度の高さ、今後の定着の見込み、そして現在の注目の度合いから言っても、「ほぼほぼ」が「今年の新語2016」大賞に輝くことは、ほぼほぼ間違いありません。

採録している辞書:なし(〈三省堂国語辞典〉の「ほぼ」に「俗に、重ねて使う」と注記あり)


以上で予想を終わります。

改めて書き直しますと、10位「砲」、9位「スカンツ」、8位「民泊」、7位「卑怯」、6位「AI」、5位「パワーワード」、4位「VR」、3位「エモい」、2位「まって」、1位「ほぼほぼ」となります。
位相としては、ネット系が「砲」「卑怯」「パワーワード」「まって」、ファッション系が「スカンツ」、社会系が「民泊」、その他一般が「AI」「VR」「エモい」「ほぼほぼ」でしょうか。和語・漢語・カタカナ語のバランスも悪くなさそうに思います。

以下、「これは入るかな?」と一旦思ったけれども結局「選外」に引っ込めた候補を、理由とともに列挙します。

  • 「み」(接尾語)は「今年からの新語2014」で既に入選してしまったため、2年後に再入選はないと考えました。
  • 「浮上」はいまいち範囲が狭い。「警察」(接尾語)もネットでばかり使われていて狭い。
  • 「ガバガバ」は古い。「草」も古い。10年かそこら以前からあり、今更入選は無理があろうと思われます。

記事を書いている間に、選考委員からこんなツイートが投稿されていました。

結果は既に出ている由。
明日の発表で予想が当たるか、外れるか。いずれにしても楽しみです。

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