舟を編む#9:亀がかわいい
ポスターが気になってしょうがない『舟を編む』9話。9話でも〈玄武国語辞典〉のポスターに〈玄武学習国語辞典〉って書いてあったように見えましたが、わざとなのか何なのか。
今回も、馬締のラブレター大公開、岸辺の覚醒、宮本の進展に項目の欠落、とお話が盛り沢山でした。
本ブログではそれ以外の部分に目を向けていきます。
前の記事で「2014年になった」と書いたものの、間違いでしたね。今回、年が明けたところで2014年のカレンダーが大写しになり、今度こそ2014年です。
その2014年秋、部決会議(と呼ぶのかどうかわかりませんが)に臨む馬締主任。
「この部数はちょっと多いんじゃないですか」
「それほど需要があるとは思えませんが」
「いいえ。他社の中型辞書は、20万部は初刷で出しています。『大渡海』も、これぐらい出していいはずです」
20万部も刷ったら爆死する……という話は先週書きました。ここは「いいえ」と一歩も引かない馬締の成長ぶりを素直に喜びたいところです。
などと偉そうに言っておりますけれど、馬締の方が私よりとっくに歳上……。
じしょたんずはしりとりの話でした。
日本語には「あ行」、「か行」、「さ行」のことばが多い。それは辞書の小口(背表紙の反対側)を見ればわかる、というわけです。
「あ、ならしりとりって、『や行』や『ら行』で終われば勝ちやすいってこと?」
「よーし! しりとりしようぜ!」
しりとり必勝法に気付いた泉くんに勝負を挑むリン太。
実際のところ「や行」や「ら行」の項目は少ないのでしょうか?
おしえて、リン太!
項目数を見てみますと、リン太こと〈大辞林〉最新版の場合、あ行39218か行43736さ行40822た行25760な行11691
うん、グラフにしましょう。
はい、ご覧の通りです。(※ものぐさで「わ行」に「ん」まで全部計上しています。)
〈大辞林〉には、漢字、すなわちことば以外を説明する項目があります。また、音(拍)がひとつだけの項目……つまり、「蚊」とか「可」とか「科」といった項目もありますから、グラフで表されているのは「しりとりで使えることば」とイコールではありません。しりとりのときは同音異義語を使い回しできないことも多いですし。
とは言え全体の傾向は掴めます。で、確かに「や行」と「ら行」が少ない。「わ行」は事実上「わ」から始まる項目(2067項目)がほとんどで、これも少ない。ただ、しりとりとなると、「わ」で終わることばってあんまり思いつかないですね。何があるだろうか。
こんな場合はデジタル辞書の後方検索機能を使います。
後方検索では、その文字(または文字列)で終わる項目だけを抽出できます。検索方法のチョイスが多いのはデジタル方法の重大な利点です。
〈三省堂ウェブディクショナリー〉で〈大辞林〉を選んで(※有料)、「わ」で後方検索した結果がこちら。
1467件、いっぱいあります。なるほど、「かわ」とか「さわ」、「いわ」で終わることばを武器にすれば、「わ」で攻められる。
……しかし、この戦術で勝ったところで、いまひとつ盛り上がらない予感がひしひしとします。真っ当な語彙力で勝負していきたい。
「や行」「ら行」が少ない、という話に戻りましょう。
とりわけ少ないのは「る」で始まることばです。518項目しかありません。500、と言うと多いようですけれど、これは26万5000分の500。全体の0.2%未満です。寡少と言って差し支えありますまい。
「る」で攻めれば、勝てる。
何か、しりとり好きの人には常識だと言われそうですが。再び後方検索で武器を調達します。
12453件! 大量にあります。
この中には「する」「食べる」みたいな動詞も多いことでしょうから、しりとり開始前に「動詞の終止形を使ってよい」というルールをこっそり書き足しておかねばなりません。あとは1万件以上ある「~る」のことばを適当に言っていけば、相手はどう頑張っても500件くらいしか手札がないわけで、数で勝る「る」を使う我々の勝利は確実です。人海戦術ならぬ言海戦術とでも名付けておきましょう。
しりとりでは、「る」で攻めていたつもりが「る」で返り討ちに遭う、という状況が起こります。例えば「ルール」は強力な必殺技になり得ます。私はしりとりに詳しいわけでも何でもないんですが、こういうシチュエーションを指す用語があったりするんでしょうか、そこで使えることばも確認しておきたい。
そのためには、ワイルドカードや正規表現を用いた検索できると便利です。PCで使える辞書ソフトなどは検索機能が充実しているものがありますが、私の好みから物書堂のiOSアプリ〈大辞林〉を使ってみましょう。
お使いの方も多いであろう物書堂版〈大辞林〉アプリはこんな画面です。
しかし、画面左上のアスタリスクをちゃんと使ったことがある方は、意外と少ないんじゃないでしょうか?
左上のアスタリスクをタップすると、検索モードが切り替わります。
パターン検索モードになりました。これでワイルドカード検索が使えます。
「る (任意の文字列) る」という語形の項目を探したい。そこでキーボードとその上のボタンを使って、検索窓に「る*る」と入力します。「*」がワイルドカード、すなわち任意の文字列を表します。
パターン検索モードではこのように条件を指定した検索が可能で、なかなか使いでがあります。
「る」で始まって「る」で終わる項目がすべて出てきました。30項目足らず、多いとも少ないとも言えますが、必殺技はひとつふたつ知っているだけでも全然違うというものです。
ともあれ、これで「ルール」と返して窮地を脱したつもりになっている相手にすかさず「ルアーブル」とどや顔で畳み掛けることで、絶望の淵に追い込んでやれるようになります。「そんなことば知らん」と抗議された場合に備えて、抜け目なく意味を知っておくために語釈も読みましょう。
なお、物書堂の辞書アプリには、上記のパターン検索が標準装備されています。〈三省堂国語辞典〉でも〈新明解国語辞典〉でも、それ以外の辞書でも同じような検索が可能です。
素晴らしいですね。
例によってほとんどどこかの回し者状態ですが、特に資本関係などはありません。どうか冷静にご対応いただきたいと思います。
以上、デジタル辞書の検索は便利である、という話でした。じしょたんずもこれくらい使いこなしていると信じている。
タイトルが投げっぱなしでした。
9話は夏のブックフェアの亀がかわいかった。玄武書房ですからね。