#今年の新語2017 をふわっと予想する
年末と言えばクリスマス、大掃除、今年の新語。三省堂「今年の新語21017」発表会がもう明日に迫っています。
発表会を控え、皆さんもご存じのながさわ氏が予想記事を発表し、大きな話題になっています(私の中で)。
ランキング予想が語釈つきで行われており、さながら野生の三省堂といった趣です。
人様の記事を勝手にまとめますと、10位から順にイキる、ギガ、クラウドファンディング、キュレーション、ブラック、プレミアムフライデー、ファースト、ワンオペ、もふもふ、そして大賞がバズるという予想。また、忖度と卍は選外。さらに、「トップ10入りしてもおかしくなさそうな他の語」として、下記の語が挙げられています。
アウティング/一択/インフルエンサー/グレージュ/警察〔=間違いを指摘する人〕/コーディガン/スクショ/攻める〔=挑戦する〕/テロンチ/沼〔=はまってしまう趣味〕/バ〔=アルバイト〕/パワーワード/ファクトチェック/フェイクニュース/ヘルプマーク/保活/ポチる/ポリコレ/マウンティング/寄せる〔=対象に合わせる〕/リアタイ/わちゃわちゃ
ユーキャンの「新語・流行語大賞」で年間大賞となったうちのひとつ「忖度」は選外、もうひとつの「インスタ映え」は姿も見せていないという予想。楽しいですね。
人の予想で楽しんでばかりいないで自分はどう思うんだ、という声がそろそろ聞こえそう。私もひとつ、選考委員がどうランキングをつけてくるかの予想をしてみます。去年は割と詳細に予想記事を書き、それなりに的中もしたのですが、今回は準備不足が祟っています。予想順位とごく簡単なコメントを述べるにとどめておきましょう。
10位 ポリコレ
「ポリティカル・コレクトネス」の略です。あんまり語る材料がないので、印象論を述べます。
ここ何年か、「その日ツイッターで自分のタイムラインをよく賑わせた話題」をメモしています。すると、ハラスメントがどうとか、ヘイトがどうとか、ポリコレに関する話は非常に多い。もしかしたらこれは昔からの傾向なのかもしれませんが、しかしツイッターやFacebook、あるいはYahoo!ニュースのコメント欄やYahoo!知恵袋のようなところで意見を言う機会がひとりひとりに与えられた結果、ポリコレの話題が日常化してしまったのではないか、という気はする(一種の「自転車置き場の議論」のようにも思えますけども)。マスに届く発信をするとき、ポリコレを意識しないことは最早あり得ず、それを行わない人が非常にしばしば燃え上がっています。でも、2017年のことばかどうか、ちょっとわからないですね。
はい次。
9位 フライデー
雑誌名ではありません。「プレミアムフライデー」「ブラックフライデー」などの行事(とまでは言えないか)に「フライデー」と付くことがあります。
ご存じ「プレミアムフライデー」は今年から実施され、じわじわ定着しているという話で、これを投稿する人も割といたようです。が、小型国語辞書にまで必要な語彙だろうか、少なくともまだそこまで普及した制度ではないのではないか……と考え、「ブラックフライデー」にも応用の利く「フライデー」単体なら載ってもいいかも知れない、と思いました。まだ小型辞書には載っていません。
うーん、いや、でも、どうだろう。次行きます。
8位 ブラック
2013年の「新語・流行語大賞」トップテンに「ブラック企業」が入っていたのをご記憶の方も多いでしょう。では今更感があるかと言えば、さにあらず。ながさわ氏も述べているように、「ブラック」単体での使用が増え、また「ブラック○○」という形での造語も増えました。「ブラックであること」という概念の部分が「企業(会社)」から独立して、よりはっきりと世間に認知されてきたわけですね。こうなるとあらゆる場面で応用可能ですから、ことばの寿命が長くなる。辞書に載る機運も高まる。
次行きましょう。
7位 ギガ
実は去年の「今年の新語」(わかりにくい)で投稿したので、それを載せておきましょう。
ギガ #今年の新語2016
携帯通信端末の、当月分残り通信量。「ギガがなくなる」「ギガを超える」「ギガが変わる/戻る(=月が明けて通信量が更新される)」。「パケ死」と並びベスト10入りが期待される— 西練馬@『グルメな辞書』好評販売中 (@nishinerima) November 7, 2016
企業が使用している例はながさわ氏も記事で言及していますが、私もこのような広告を採集していました。
ギガ放題 pic.twitter.com/H0V0Ov3FzW
— 西練馬@『グルメな辞書』好評販売中 (@nishinerima) December 14, 2016
実は私自身、最近「ギガ」を好んで(敢えて、と言うべきか)使うようになりました。「通信量がなくなる」より口で言いやすいし伝わるんですよね。「通信速度制限」という恐怖のシステムが存在する限り、そして我々の通信状況が「テラ」レベルにならない限り、「ギガ」は残るように思っています。
どんどん行きます。
6位 パワーワード
2015年から投稿している方がいます。私も2016年に推しました。合わせて掲載します。
【パワーワード】①説得力のある言葉や文章。類:格言 ②意味はよく分からないが語感の力強さで人を圧倒する言葉。忍殺語によく見られる。 #今年の新語2015
— kyo_tthree (@kyo_tthree) September 16, 2015
パワーワード #今年の新語2016
〔power word〕①勇気ややる気を与えるような、精神を奮い立たせる言霊。 ②(通常あり得ないと思われる単語の取り合わせなどによって)強烈なおかしみや違和感を喚起し、えもいわれぬ魅力を放つ言霊。去年も投稿がありました。— 西練馬@『グルメな辞書』好評販売中 (@nishinerima) September 7, 2016
2015年に投稿された方は、今年「さすがにそろそろランクインだろう」と呟いています。あまりネットの外では聞かれないため、大賞は無理と踏んでいますが、ランクインしてもいいんじゃないかとは感じます。
下位の予想を終えて上位に入ります。
5位 警察
再び2016年の投稿を再掲。
-警察 #今年の新語2016
(接尾)分野や事物の名前に付いて、創作物においてその分野に考証の誤りがあることを指摘・考察する行為・人を表す。(例:神保町警察=辞書編纂アニメに描かれた神保町らしき街並みを現実と比較し、検証する人) 2015年にも投稿があったが、今年はどうか。— 西練馬@『グルメな辞書』好評販売中 (@nishinerima) September 6, 2016
最近、非常にメジャーな言い回しになってきたように感じます(印象論!)。とは言え「パワーワード」同様、まだネットで使うことばという印象は強いかも(印象論!!)。
ちなみにこれも2015年から投稿があります。
【警察】[接尾辞]その分野の専門的な知識を持ち、普通の人には些末に思えるような誤りをことさらに糾弾する人。「弓道警察」が発端か。本気で叩いてる人と遊びとして知識披露しているだけの人といる。 #今年の新語2015
— kyo_tthree (@kyo_tthree) September 8, 2015
どうも私は人の後追いをしているだけのような気がしてきました。次です。
4位 ヘルプマーク
例によって去年の投稿。
ヘルプマーク #今年の新語2016
〔商標:help mark〕(見た目にわからないが)配慮や援助の必要な人が、そのことを周囲に知らせるためのしるし。赤地に白い十字とハートがあしらわれている。2012年に東京都が作成して配布を始め、16年から京都・和歌山・徳島でも配布を開始した。— 西練馬@『グルメな辞書』好評販売中 (@nishinerima) September 6, 2016
しかし上記の語釈では、健康上の事情から配慮が必要、というポイントが見逃されており、実に不十分です。
その点でながさわ氏が今年投稿した語釈は優れていますね。
ヘルプマーク #今年の新語2017
外見からはそうとわかりづらい障害を抱える人や妊娠初期の人などが身につけ、周囲の人に援助や配慮を求めるためのマーク。— ながさわ(苺ましまろは救い) (@kaichosanEX) November 15, 2017
「ヘルプマーク」を2017年の「今年の新語」として選ぶ上で重要なのは、JIS規格に追加されたというニュースです。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、(…)JIS Z8210(案内用図記号)の改正案について、日本工業標準調査会(JISC)の審議を経て、本日公示しました。具体的には、7 種類の案内用図記号を変更し、15 種類の新しい案内用図記号及び「ヘルプマーク」を追加しました。
東京都が始めたこのマークは全国区となることが確定的となりました。普及にも弾みがつき、辞書が解説することも求められてくるでしょう。
ベスト3です。早くも息切れしているので手早く。
3位 イキる
「イキリオタク」でもおなじみのイキる。既に載せている辞書があります。
いきる(意気る)[動](「いきがる」の略)えらぶる。調子にのる。鼻を高くする。得意になる。主に関西の若者語。<類義語>意気がる・調子こく・天狗の鼻・ピノキオ。◆「あいつ最近イキッてるわ」「彼氏できたしな」◆「ちょっと跳び箱できたからってイキんなよな」
何だ、もう辞書にあるのか。と言っても普通の国語辞書ではありません。俗語だけを集めた『日本俗語大辞典』という特殊な辞書です。
編者の米川明彦氏は位相語・社会方言に非常に強く、何冊もの辞書を出しています。ながさわ氏が「米川は」と言うのは『日本俗語大辞典』の語源の記述を指してのこと。
イキる #今年の新語2017
〔もと関西方言〕調子に乗って偉ぶる。「イキリオタク」が流行語に。米川は「意気る」説を採るが、「熱る」と思う。「小籔は『イキる奴』が嫌い」(SAPIO 16.7)、「イキってた連中にぜひ感想を聞きたいところだが」(twitter 17.6)— ながさわ(苺ましまろは救い) (@kaichosanEX) September 1, 2017
ランクインの暁には、おのずと語源に関する見解も示されるでしょう。そういう意味でも入選を期待したい。
次です。
2位 沼
2014年、「今年からの新語」という飯間先生の個人企画だった頃に投稿していました。
沼 #今年からの新語 始まりは「レンズ沼」からっぽい。最低でも10年は昔からある言い方のようだが、私の見聞する範囲ではここ1年で一気に広まった感あり。趣味領域や商品名につけて使うことしばしば。国語辞典沼においでよ!
— 西練馬@『グルメな辞書』好評販売中 (@nishinerima) November 18, 2014
当時はまだネット用語感があったものの、この3年で一気に「普通のことば」に昇格してきました。ながさわ氏は新聞・テレビでの用例を指摘していますが、のみならず趣味領域を扱う雑誌・書籍でも見かけるようになっています。『浪費図鑑』などはある意味その典型と言えましょう(元は同人誌ですが)。様々な趣味にどっぷり浸かる人々の存在がSNSによってますます可視化された時代によく合うことばです。
いよいよ大賞の予想となります。
大賞 草
草wwwwww
草 #今年の新語2016
おかしい。笑える。「神代文字信じてるとか草」〔ネット用語で「笑い」を意味する「www」を芝に見立てて「草が生える」と言ったことから〕— 西練馬@『グルメな辞書』好評販売中 (@nishinerima) September 10, 2016
失礼しました。大穴っぽいのですが、どうも「草」は無視できない迫力がある。
発言者が笑っていることを示すために文末に「(笑い)」と付ける文化は、出版物では長年当たり前に存在していました。パソコンが登場し、性能が向上する(なかんずく、漢字が扱えるようになる)とともにその表現が画面上に出現したのも当然と言えましょう。いつしか表記は縮められ、「w」にまでなります。その「w」が載った国語辞書が世に放たれたのもほんの数年前、2013年の年末のこと。三省堂国語辞典第7版の記述です。
ダブリュー【W】(名) … ④〔←warai=笑い〕〔俗〕〔インターネットで〕(あざ)笑うことをあらわす文字。「まさかwww」〔二十一世紀になって広まった使い方〕
「藁」「ワロタ」「ワロス」など、生まれては消えていった「笑い」を表すことばが脳裏に浮かびます。けれども「草」の主戦場たるTwitterやLINEは、かつての2ちゃんねるとは比べものにならないほど多くの人が利用しています。「ワロタ」なんて活字で見たら絶対気持ち悪いものの、「草(生える)」ならそこまで奇妙ではありません。「草」もそのうち消えるかもしれませんが、それは意外と先なのではないか、意外と国語辞書に滑り込んでしまうのではないか、という気がします。
まあ大穴なんですけど。
続いてランクインしなかった皆さんのコーナーです。どうぞ。
選外
インスタ映え:たぶん総投稿数の1割くらいがこれで、注目度の高さからも「選外」で説明されることは確定でしょう。結局「インスタで映える」以上の意味は言っておらず、応用がありません。「ブラック」や(私は予想に含めませんでしたが)「ワンオペ」などとの大きな違いです。
忖度:昔からあることばが有名になっただけのようです。「インスタ映え」同様に何らかのコメントがあると予想されます。
卍:現状、あまり意味のあることばとは思われません。選考委員でも語義が掴めていないんじゃないかと思います。「!」や「★」のように賑やかしとしてしか使われないのであれば、国語辞書に載ることは難しいでしょう。
以上、今年の新語2017の予想をお送りしました。日頃の蓄積不足が端々から顔を覗かせてしまいましたね。せめて、予想が的中することを祈ります。